文字と発音

 ヒンディー語は、サンスクリット語などの表記に使われるデーヴナーグリー文字(またはデーヴァナーガリー文字)を使って書かれる。だが、ヒンディー語の発音に合わせて、サンスクリット語用デーヴナーグリー文字に多少改変が加えられている。以下、現代ヒンディー語で使われる文字について、実際の発音を重視した実用的な説明をする。通常のヒンディー語の教科書とは少し違った説明になっているので注意。

 ヒンディー語の文字は母音字と子音字に大別される。

母音字と母音

 母音字の並びは、日本語の五十音図と同じ「アイウエオ」だが、短母音と長母音の区別がある。「ウー」の次の ऋ(リ)は特殊な文字なので、初学者は気にしないでいい。色の付いた部分は、上級者向けの説明なので、やはり初学者は読み飛ばしてもいい。

短母音。
アー 長母音。
短母音。
イー 長母音。
短母音。
ウー 長母音。
母音字扱いだが、発音は「リ」で、母音ではない。サンスクリット語の名残り。サンスクリット語からの借用語以外に出て来ない。
(ऍ) 短母音。ヒンディー語では、一部の固有の単語と、外来語の単語の発音時に短母音「エ」が出て来ることがあるが、この音を示すヒンディー語の文字はない(この音が出て来る単語の例)。
エー 長母音。通常、ヒンディー語の「エ」の音は常に長母音「エー」になる。
(ऐँ) アェ 短母音。「ア」と「エ」の中間の音。特定の状況で発音される。この発音を示すヒンディー語の文字はない。下の長母音「ऐ」と区別するため、便宜的に半角カナ表記する(この音が出て来る単語の例)。
アェ、アイまたはアエ 長母音。地域によって発音が違う。西部ではアェと単一の長母音扱い、東部ではアエと二重の長母音扱い。一部単語(後述)でアイと二重母音扱いになる。
(ओँ) 短母音。特定の状況で発音される。この発音を示すヒンディー語の文字はない。「औँ」は普通使われないが、便宜的に示した(この音が出て来る単語の例)。
オー 長母音。通常、ヒンディー語の「オ」の音は常に長母音「オー」になる。
アォ 短母音。この文字は、外来語の表記にのみ使われることがある。元来の母音字表には含まれない。下の長母音「औ」と区別するため、便宜的に半角カナ表記する(この音が出て来る単語の例)。
アォ、アウまたはアオ 長母音。地域によって発音が違う。西部ではアォと単母音扱い、東部ではアオと二重母音扱い。一部単語(後述)でアウと二重母音扱いになる。

 ऐ と औ の発音は、ヒンディー語圏の西部と東部で発音が異なる。西部とはデリーやラージャスターン州、東部とはウッタル・プラデーシュ州やビハール州と考えればよい。標準ヒンディー語は西部の発音が基準になっているが、インドでは東部の発音も耳にする機会も多い。

 अ, आ, ऑ, ओ, औの「अ」の部分に関しては、稀にという字体もあるので注意。

 各文字に必ずある横棒はシローレーカーと呼ばれ、単語のまとまりを示す。基本的にひとつの単語はひとつのシローレーカーで結ばれる。例えば आई は「(女性が)来た」という意味の動詞だが、ひとつのシローレーカーで結ばれている。ただし、文字によってはシローレーカーを分断してしまうものもあり、母音字の中のअ, आ, ऑ, ओ, औ はその一種である。例えばआओ で「来い」という意味の動詞だが、「ओ」の左部分が上に出っ張って、シローレーカーを分断してしまっている。だが、これは仕様であり、特に気にする点ではない。

子音字と子音

 ヒンディー語の子音字は、母音「ア」を伴って発音される。例えば क は「k」の音を表す子音音だが、読むときは「カ」と発音される。

 ヒンディー語の子音字は基本的に、発音時の口や舌の形が同じものがひとつのセットとしてまとめられている。合計5つのセットがあり、各セットには5文字が含まれている。それらは、(1)無声音か有声音か、(2)無気音か有気音か、の2つの要素でもって順番に並べられている。無声無気音、無声有気音、有声無気音、有声有気音の順番になる。最後に鼻子音が加わり、合計5文字で、1セットになる。これがヒンディー語の子音の基本である。

 最初の「क」のセットを例にして説明すると以下のようになる。

無気音 有気音
無声音 (カ ka) (カ kha)
有声音 (ガ ga) (ガ gha)
鼻子音 (ンガ nga)

 上の5つの子音字は、全て発音時の口や舌の形が同じ(言語学の専門用語では軟口蓋閉鎖音)であるが、息を口から出すか鼻から出すか、声帯(喉仏)を震わすか否か、息をたくさん放出するか否かで音が変わってくる。息を鼻から出すとそれは鼻子音 ङ(ンガ nga)になる。息を口から出した場合は4つに分類される。声帯を震わさず、息をたくさん放出しない場合、無声無気音の क(カ ka)になる。声帯を震わさず、息をたくさん放出した場合、無声有気音の ख(カ kha)になる。声帯を震わし、息をたくさん放出しない場合、有声無気音のग(ガ ga)になる。声帯を震わし、息をたくさん放出した場合、有声有気音のघ(ガ gha)になる。子音字の順番は、無声無気音 क、無声有気音 ख、有声無気音 ग、有声有気音 घ、鼻子音 ङ になる。

 もう少し分かりやすく説明すると、まず क と ग は日本語の「カ」、「ガ」と同じと考えてよい。無声音と有声音の違いは、「カ」と「ガ」の違いに見られるように、発音時に喉の声帯が震えるか否かである。一方、無気音と有気音の違いは日本語にはない概念で、発音時に息がたくさん放出されるか否かで区別される。放出が少ないのが無気音、多いのが有気音である。鼻子音は、日本語の「ン」だと考えればよい。各セットごとに「ン」の字が用意されているが、現代ヒンディー語では通常一部しか使用しない。例えば、上で出て来た ङ の文字が出て来るのは、ヒンディー語の語彙の中でも「文献」という意味の「वाङ् मय」という単語くらいである。

 また、各セットには、サンスクリット語にない発音や、外来語の発音を表記するために新しく作られた文字が追加されるときがある。新しく作られた文字は、既存の似た発音の文字の下に点を加えた形になっている。「क」のセットには3つの追加文字がある。क़, ख़, ग़ である。これらについては後述する。

 ヒンディー語の子音字の最初の5セットは以下の通りである。現代ヒンディー語の現状に合わせて紹介する。追加文字などは背景を色付きにした。

1.「क」のセット 軟口蓋破裂音

カ ka 無声無気音。
カ qa 追加文字。「qa」の発音だが、「ka」のまま発音されることもある。
カ kha 無声有気音。क の有気音。
カ khaまたはxa 追加文字。「ka」を喉の奥から、摩擦させる感覚で発音。「kha」のまま発音されることもある。
ガ ga 有声無気音。
ガ gaまたはgha 追加文字。「ga」を喉の奥から、摩擦させる感覚で発音。「ga」のまま発音されることもある。
ガ gha 有声有気音。ग の有気音。
ンガ nga 鼻子音。ほとんど使われない。

2.「च」のセット 硬口蓋破擦音

チャ cha 無声無気音。
チャ chha 無声有気音。च の有気音。
ジャ ja 有声無気音。
ザ za 追加文字。「ja」のまま発音されることもある。
ジャ jha 有声有気音。ज の有気音。
ニャ nya 鼻子音。ほとんど使われない。

 झ にはという字体もあるので注意。

3.「ट」のセット 反舌閉鎖音

 このセットだけは特殊なので説明が必要である。ヒンディー語には反舌音(または反り舌音)という特殊な発音がある。この音は基本的には日本語の「タ」「ダ」に近いが、舌を反らして発音する。少しこもった感じの音になる。

タ ta 無声無気音。舌を反らして「タ」と発音。
タ tha 無声有気音。ट の有気音。
ダ da 有声無気音。舌を反らして「ダ」と発音。
ラ ra 追加文字。「ラ」と「ダ」の中間の音。舌を上前歯の裏の歯茎に打ち付けて滑らしながら発音する。
ダ dha 有声有気音。ढ の有気音。
ラ rha 追加文字。ढ़ の有気音。
ナ na 鼻子音。舌を反らして「ナ」と発音するのが本来の発音だが、現代ヒンディー語では普通の「ナ」と同様に発音されることが多い。

 णはという字体もあるので注意。

4.「त」のセット 歯裏閉鎖音

タ ta 無声無気音。
タ tha 無声有気音。त の有気音。左部分がシローレーカーの上に出ている。
ダ da 有声無気音。
ダ dha 有声有気音。द の有気音。左部分がシローレーカーの上に出ている。
ニ na 鼻子音。
न्ह ナ nha 結合文字(後述)。文字上では न् + ह だが、発音上は न の有気音になる。

5.「प」のセット 両唇閉鎖音

パ pa 無声無気音。
パ phaまたはfa 無声有気音。प の有気音。「ファ」と発音されることもある。
ファ fa 追加文字。
バ ba 有声無気音。
バ bha 有声有気音。ब の有気音。左部分がシローレーカーの上に出ている。
マ ma 鼻子音。
म्ह マ mha 結合文字(後述)。文字上では म् + ह だが、発音上は म の有気音になる。

 ヒンディー語の文字には、上記の5セット以外に、もう2セットあるが、こちらは発音時の口や舌の形が共通しているわけではない。

6.半母音のセット

ヤ ya
ラ ra
ラ la
ल्ह ラ lha 結合文字(後述)。文字上では ल् + ह だが、発音上は ल の有気音になる。
ワまたはヴァ
waまたはva

7.摩擦音のセット

シャ sha 左部分がシローレーカーの上に出ている。
シャ sha 舌を反らせて「シャ」と発音するのが本来の発音だが、現代ヒンディー語では普通の「シャ」と同様に発音されることが多い。
サ sa
ハ ha

 結局、ヒンディー語の文字はいくつあるのか?もしデーヴナーグリー文字に元からあり、ヒンディー語でも使用している文字を数えるならば、母音字は अ, आ, इ, ई, उ, ऊ, ऋ, ए, ऐ, ओ, औ の11字、子音字は क, ख, ग, घ, ङ, च, छ, ज, झ, ञ, ट, ठ, ड, ढ, ण, त, थ, द, ध, न, प, फ, ब, भ, म, य, र, ल, व, श, ष, स, ह の33字、合計44字になる。だが、現代ヒンディー語ではいくつか文字が追加されており、それらを加える必要もある。追加文字は क़, ख़, ग़, ज़, ड़, ढ़, फ़ の合計7文字である。それらを合計すると、51文字になる。

結合文字

 子音を単独で表記したい場合、つまり母音「ア」を含まない形で表記したい場合、ハル「्」という記号を子音字の下に付加する。例えば、क にハル「्」を付加した क् は「k」になる。だが、現代ヒンディー語ではハルはあまり使われない。

 子音を単独で表記するには、もうひとつの方法がある。それは半子音形の子音字(以下、半子音字)を用いることである。半子音字は、子音字の一部を省略することで形成されることが多い。ただし、全ての子音字に半子音形があるわけではない。また、半子音形があっても、現代ヒンディー語では滅多に使用しないものもある。半子音形のない文字は、ハルを使うか、後で説明する結合文字によってのみ、子音を単独で書き表すことができる。また、半子音字は後に続く子音字との結合を前提にして使われるため、単独では出て来ない。

 各主要子音字の半子音形は以下の通り。

半子音形は使用しない
半子音形なし
半子音形なし
半子音形は使用しない
半子音形は使用しない
半子音形なし
半子音形なし
半子音形なし
半子音形なし
半子音形なし
半子音形は使用しない
特殊な半子音形(後述)
または
半子音形なし

 半子音形の子音字の後には別の子音字が来て、結合文字を形成する。例えば क् + य で क्य (キャ kya)になる。र(ラ) の半子音形だけ特殊で、次の子音字のシローレーカーの上にが付く。例えば、र्य は र् + य であり、「リャ rya」と読む。

  क्क, ट्ट, ट्ठ, ड्ड, ड्ढ などは、子音字が上下に重なる字体もある。だが、現代ヒンディー語ではあまり使われなくなって来た。

 特定の半子音字+子音字の組み合わせには、特別な結合文字が用意されている。現代ヒンディー語でよく出て来る特別な結合文字は以下の通りである。

क् + त → क्त クタ kta
क् + र → क्र クラ kra
क् + ष → क्ष クシャ ksha
ग् + र → ग्र グラ gra
घ् + र → घ्र グラ ghra
ज् + ञ → ज्ञ ギャ gya(サンスクリット語では「ジュナ」と読む)
ज् + र → ज्र ジュラ jra
ट् + र → ट्र トラ tra
ड् + र → ड्र ドラ dra
त् + त → त्त ッタ tta
त् + र → त्र トラ tra
थ् + र → थ्र トラ thra(英語の「thra」の表記に使われる)
द् + द → द्द ッダ dda
द् + ध → द्ध ッダ ddha
द् + म → द्य ドマ dma
द् + य → द्य デャ dya
द् + र → द्र ドラ dra
द् + व → द्व ドヴァまたはドワ dva/dwa
ध् + र → ध्र ドラ dhra
प् + र → प्र プラ pra
फ़् + र → फ़्र フラ fra(英語の「fra」の表記に使われる)
ब् + र → ब्र ブラ bra
भ् + र → भ्र ブラ bhra
म् + र → म्र ムラ mra
व् + र → व्र ヴラ vra
श् + र → श्र シュラ shra
स् + र → स्र スラ sra
ह् + म → ह्म フマ hma
ह् + र → ह्र フラ hra
ह् + ल → ह्ल フラ hla

 क्ष はという字体もあるので注意。

 現代ヒンディー語ではいくつかの結合文字が使用されなくなって来ている。その場合、半子音字+子音字の形が使われる。例えば、 क्त は 、द्व は と書かれているのを見る機会が時々ある。

 ヒンディー語には、3文字の結合文字まである。半子音+半子音+子音字になる。

 子音字の紹介で出て来た न्ह, म्ह, ल्ह は、見た目は結合文字だが、発音はそれぞれ न, म, ल の有気音になる。

母音記号

 子音字は単独では母音「ア」と共に読まれるが、母音記号を付加することで、その子音は他の母音と共に読むことも可能となる。母音記号は以下の通りである。基本的な発音の仕方は、母音字で説明したことと共通している。

アー
‍‍ि 子音字の左側に来るので注意。
イー
ウー
母音ではないが、伝統的に母音記号として扱われる。
エー 短母音のエを示す母音記号はヒンディー語にはない。
アェ、アイまたはアエ 地域によって発音が違う。西部ではアェと単母音扱い、東部ではアエと二重母音扱い。一部単語でアイと二重母音扱いになる。
外来語の表記にのみ使われる。
オー
アォ、アウまたはアオ 地域によって発音が違う。西部ではアォと単母音扱い、東部ではアオと二重母音扱い。一部単語でアウと二重母音扱いになる。

 上記の母音記号を、子音字 क に当てはめると、以下のようになる。

का カー
‍‍कि
की キー
कु
कू クー
कृ クリ क्रि(クリ)と同じ発音になる。
के ケー 短母音のケを示す子音字と母音記号の組み合わせはヒンディー語にはない。
कै カェ、カイまたはカエ 地域によって発音が違う。西部ではカェと単母音扱い、東部ではカエと二重母音扱い。一部単語でカイと二重母音扱いになる。
कॉ 外来語の表記にのみ使われる。
को コー
कौ カォ、カウまたはカオ 地域によって発音が違う。西部ではカォと単母音扱い、東部ではカオと二重母音扱い。一部単語でカウと二重母音扱いになる。

 子音字 र(ラ)に母音記号 (ウ)または ू(ウー)が付加されたとき、表記は変則的になり、それぞれ रु(ル)、रू(ルー)になる。

 子音字 श(シャ)に母音記号 ृ(リ)が付加されたとき、表記は変則的となり、(シュリ)になる。ただし、この文字はWindows上では、フォントの関係で शृ または श्रृ と表記される。

 子音字 ह(ハ)に母音記号 ृ(リ)が付加されたとき、表記は変則的となり、हृ(フリ)になる。

 母音字、子音字、結合文字、母音記号までマスターすれば、一部を除き、大体の単語は読み書きができるようになる。以下、簡単な単語を例にしてヒンディー語の文字のシステムをもう一度おさらいする。

पानी パーニー pānī 水

पानी = पा + नी = [子音字 प(パ) + 母音記号 (アー)] + [子音字 न(ナ) + 母音記号 (イー)]

केला ケーラー kelā バナナ

केला = के + ला = [子音字 क(カ) + 母音記号 (エー)] + [子音字 ल(ラ) + 母音記号 (アー)]

 ヒンディー語の「エ」の音は通常長母音になるため、アルファベットで「e」と書いた場合は自然に「エー」と発音する。「o」の場合も同様に、自然に「オー」と発音する。

गोभी ゴービー gobhī カリフラワー

गोभी = गो + भी = [子音字 ग(ガ) + 母音記号 (オー)] + [子音字 भ(バ) + 母音記号 (イー)]

प्रेमी プレーミー premī 恋人

प्रेमी = प् + रे + मी = [子音字 प(パ)の半子音形] + [子音字 र(ラ) + 母音記号 (エー)] + [子音字 म(マ) + 母音記号 (イー)]

हिन्दी ヒンディー hindī ヒンディー語

हिन्दी = हि + न् + दी = [子音字 ह(ハ) + 母音記号 ि(イ)] + [子音字 न(ナ)の半子音形] + [子音字 द(ダ) + 母音記号 (イー)]

鼻母音・鼻子音記号

 ヒンディー語には、母音記号の他にもいくつか記号がある。鼻母音記号・鼻子音記号はその一例である。

 ऋ(リ)と ऑ(オ)の母音を除き、全ての母音は鼻母音化する。鼻母音とは、鼻からも息を放出しながら発音する母音である。鼻にかかった音になる。

 鼻母音を表すには、それぞれの文字の上にビンドゥ(ं)またはチャンドラビンドゥ(ँ)という記号が付加される。基本的には、シローレーカーと呼ばれる棒の上に出っ張りのない文字(母音字の中では अ, आ, इ, उ, ऊ)の上にはチャンドラビンドゥが、出っ張りのある文字(母音字の中では ई, ऐ, ओ, औ)の上にはビンドゥが付加されるが、印字、フォントや個人の癖などの影響で、出っ張りのない文字の上にも、鼻母音記号として、チャンドラビンドゥではなくビンドゥが付加されることがある。だが、チャンドラビンドゥが付加されるべき場所は、チャンドラビンドゥを付加して覚えておいた方が後々役に立つ。

 鼻母音化した母音字と子音字( क を例に)は以下の通りである。

अँまたはअं 鼻がかったア कँまたはकं 鼻がかったカ
आँまたはआं 鼻がかったアー काँまたはकां 鼻がかったカー
इँまたはइं 鼻がかったイ किं 鼻がかったキ
ईं 鼻がかったイー कीं 鼻がかったキー
उँまたはउं 鼻がかったウ कुँまたはकुं 鼻がかったク
ऊँまたはऊं 鼻がかったウー कूँまたはकूं 鼻がかったクー
एँまたはएं 鼻がかったエー कें 鼻がかったケー
ऐं 鼻がかったアェ、アエまたはアイ कैं 鼻がかったカェ、カエまたはカイ
ओं 鼻がかったオー कों 鼻がかったコー
औं 鼻がかったアォ、アオまたはアウ कौं 鼻がかったカォ、カオまたはカウ

 ヒンディー語には鼻子音が5つある。すなわち、ङ, ञ, ण, न, म である。これらが半子音形になって、次の子音字と結合する際、これらの半子音形鼻子音字が省かれ、代わりに前の母音字または子音字の上にビンドゥが付加されて、鼻子音が続くことが示されることが多い。鼻子音を示すビンドゥは特別にアヌスワーラと呼ばれる。鼻子音の半子音字の代用では、チャンドラビンドゥは使われない。この書き方を使った方が多少容易になる。例えば、「ヒンディー語」という意味の単語は以下の2通りの書き方ができる。

हिन्दी = हि + न् + दी = [子音字 ह(ハ) + 母音記号 ि(イ)] + [子音字 न(ナ)の半子音形 + 子音字 द(ダ) + 母音記号ी(イー)]
हिंदी = हि + ं + दी = [子音字 ह(ハ) + 母音記号 ि(イ) + ビンドゥ ं(ン)] + [子音字 द(ダ) + 母音記号ी(イー)]

 ただし、鼻子音(主にनとम)同士が結合子音を作る場合、アヌスワーラは使われない。例えば、「サトウキビ」という意味の単語 गन्ना は、鼻子音 न(ナ)が2つ重なっているため、通常は गंना とは書かれない。「熱中」という意味の単語 उन्माद は、鼻子音 न(ナ)と鼻子音 म(マ)が結合子音を作っているため、通常は उंमाद とは書かれない。「尊敬」という意味の単語 सम्मान は、鼻子音 म(マ)が2つ重なっているため、通常は संमान とは書かれない。

 鼻子音が後ろに続くことを示す母音字と子音字( क を例に)は以下の通りである。

अं アン कं カン
आं アーン कां カーン
इं イン किं キン
ईं イーン कीं キーン
उं ウン कुं クン
ऊं ウーン कूं クーン
एं エーン कें ケーン
ऐं アェン、アエンまたはアイン कैं カェン、カエンまたはカイン
ओं オーン कों コーン
औं アォン、アオンまたはアウン कौं カォン、カオンまたはカウン

潜在母音

 母音記号や鼻子音記号が付いている子音字は、一部の例外を除き、そのまま読めば問題ない。だが、母音記号や鼻子音記号が付加されていない子音字が単語中に出て来た場合、その子音字が潜在的に示す「ア」の母音(潜在母音)が、はっきり発音されるときと、発音されない、または非常に弱くしか発音されないときがある。ヒンディー語の文字の読みを練習するときに、まずぶち当たる難関である。だが、いくつかの原則があり、それらを理解すれば、悩むことは少ない。

 以下、それらの原則を説明する。数字が小さい原則ほど、優先される。

原則1.語頭の子音字(母音記号・鼻子音記号なし)は必ず潜在母音が読まれる。

गधा ガダー gadhā ロバ

गधा = ग + धा = [子音字 ग(ガ)の潜在母音あり] + [子音字 ध(ダ) + 母音記号 (アー)]

बच्चा バッチャー bachchā 子供

बच्चा = ब + च् + चा = [子音字 ब(バ)の潜在母音あり] + [子音字 च(チャ)の半子音形] + [子音字 च(チャ) + 母音記号 (アー)]

 1文字の単語にもこの原則は適用される。

 ナ na ~ではない(否定辞) 

= [子音字 न(ナ)の潜在母音あり]

 語頭が結合子音であってもこの原則は適用される。半子音字に母音はないので、次の子音字の潜在母音が必ず読まれる。

प्रथा プラター prathā 慣習

प्रथा = प् + र + था = [子音字 प(パ)の半子音形] + [子音字 र(ラ)の潜在母音あり] + [子音字 थ(タ) + 母音記号 (アー)]

原則2.語末の子音字(母音記号・鼻子音記号なし)は必ず潜在母音が省略される。

आम アーム ām マンゴー

आम = आ + म = [母音字 आ(アー)] + [子音字 म(マ)の潜在母音なし]

प्याज़ ピャーズ pyāz タマネギ

प्याज़ = प् + या + ज़ = [子音字 प(パ)の半子音形] + [子音字 य(ヤ) + 母音記号 (アー)] + [子音字 ज़(ザ)の潜在母音なし]

मिर्च ミルチ mirch 唐辛子

मिर्च = मि + र् + च = [子音字 म(マ) + 母音記号 ि(イ)] + [子音字 र(ラ)の半子音形] + [子音字 च(チャ)の潜在母音なし]

 語末が結合文字であってもこの原則は適用される。

बुद्ध ブッド buddh 仏陀

बुद्ध = बु + द् + ध = [子音字 ब(バ) + 母音記号 (ウ)] + [子音字 द(ダ)の半子音形] + [子音字 ध(ダ)の潜在母音なし]

原則3A.母音記号・鼻子音記号を伴わない子音字の直後に、結合文字ではない子音字が来て、しかも母音記号・鼻子音記号が付いている場合、前の子音字の潜在母音は省略される。

कमरा カムラー kamrā 部屋

कमरा = क + म + रा = [子音字 क(カ)の潜在母音あり(原則1)] + [子音字 म(マ)の潜在母音なし] + [子音字 र(ラ) + 母音記号 (アー)]

आसमान アースマーン āsmān 空

आसमान = आ + स + मा + न = [母音字 आ(アー)] + [子音字 स(サ)の潜在母音なし] + [子音字 म(マ) + 母音記号 (アー)] + [子音字 न(ナ)の潜在母音なし(原則2)]

बजरंग バジラング bajrang ハヌマーン(猿の神様)の別名

बजरंग = ब + ज + रं + ग = [子音字 ब(バ)の潜在母音あり(原則1)] + [子音字 ज(ジャ)の潜在母音なし] + [子音字 र(ラ) + 鼻子音記号 (アン)] + [子音字 ग(ガ)の潜在母音なし(原則2)]

 母音記号・鼻子音記号を伴わない子音字の直後の文字が結合文字になっている場合、この原則は適用されない。

जगन्नाथ ジャガンナート jagannāth ジャガンナート神

जगन्नाथ = ज + ग + न् + ना + थ = [子音字 ज(ジャ)の潜在母音あり] + [子音字 ग(ガ)の潜在母音あり] + [子音字 न(ナ)の半子音形] + [子音字 न(ナ) + 母音記号 (アー)] + [子音字 थ(タ)の潜在母音なし(原則2)]

原則3B.4文字以上の単語において、語頭から数えて2文字目と3文字目に母音記号・鼻子音記号を伴っていない子音字が来る場合、2文字目の子音字の潜在母音は省略され、3文字目の潜在母音は読まれる。

मतलब マトラブ matlab 意味

मतलब = म + त + ल + ब = [子音字 म(マ)の潜在母音あり(原則1)] + [子音字 त(タ)の潜在母音なし] + [子音字 ल(ラ)の潜在母音あり] + [子音字 ब(バ)の潜在母音なし(原則2)]

 原則3Aと3Bは同じ優先度を持っており、それらが競合する場合、つまり4文字目の子音字に母音記号や鼻子音記号が付加されている場合、2通りの読み方ができるときがある。地域や個人によって、どちらの読み方をするかは異なるが、3Bが優先される場合が多い。

छिपकली チプカリー chhipkalī ヤモリ (原則3B優先)

छिपकली = छि + प + क + ली = [子音字 छ(チャ) + 母音記号 ि(イ)] + [子音字 प(パ)の潜在母音なし] + [子音字 क(カ)の潜在母音あり] + [子音字 ल(ラ) + 母音記号 (イー)]

छिपकली チパクリー chhipaklī ヤモリ(原則3A優先)

छिपकली = छि + प + क + ली = [子音字 छ(チャ) + 母音記号 ि(イ)] + [子音字 प(パ)の潜在母音あり] + [子音字 क(カ)の潜在母音なし] + [子音字 ल(ラ) + 母音記号 (イー)]

 その他の状況では常に潜在母音は読まれると考えてよい。以上の原則を頭に入れておけば、日常会話に出て来る大半の単語の潜在母音の発音は怖くない。

 潜在母音が本当に難しいのは、複数の語から成る単語や、接頭辞、接尾辞が付いた単語である。潜在母音の有無が問題になる際、単語中の語や接辞は分解され、それぞれが1単語として扱われる。よって、語の構造を理解しなければ、正確な発音はできない。例えば、「広まっていない」という意味の形容詞 अप्रचलित は、以下のように分解される。

अ + प्र + चलित

 अ は否定の接頭辞、प्र は「前方」を意味する接頭辞で、本体は「動いている」という意味の形容詞 चलित である。これらの中で、母音記号や鼻母音・鼻子音記号が付いておらず、潜在母音の有無が問題になるのは、अ(ア), प्र(プラ), च(チャ), त(タ)の4文字である。上のように分解すると、अ, प्र, च は語頭扱いとなって原則1が適用される。つまり、 अप्रचलित は「アプラチャリト aprachalit」と発音される。

 元々は複数の語や接辞から成る単語だが、口語において、上記の潜在母音の原則が誤って適用され、しかもそれがかなり広まってしまったものもいくつか見られる。例えば、「馬鹿」という意味の単語 बेवक़ूफ़ は、分解すると以下のようになる。

बे + वक़ूफ़

 बे は否定の接頭辞で、वक़ूफ़ は「知識」という意味の名詞である。よって、वक़ूफ़ の व は、原則1「語頭の子音字(記号なし)は必ず潜在母音が読まれる」に従って、潜在母音と共に発音されなければならない。つまり、「ベーヴァクーフ bevaqūf」になる。だが、一部の人々の間ではこの単語は、「ベーヴクーフ bevqūf」と読まれている。なぜなら、上のような分解をせず、वक़ूफ़ の व に原則3Aが適用されてしまったからである。本当は間違いだが、この読み方は市民権を得つつある。

  だが、語の構造に関わる潜在母音の読みは中級者以上の問題であり、初級者はとりあえず忘れていいだろう。

句読点と特殊な文字・記号・発音

 ヒンディー語の文字と発音は以上の事柄が基本だが、正確で美しい発音のためにはもう少しだけ句読点や例外的な規則を学ぶ必要がある。

句読点

 ヒンディー語の文章は、プールンヴィラーム(完全休止)と呼ばれる「।」で閉じられる。プールンヴィラームは英語のピリオド「.」、日本語の「。」にあたる句読点である。だが、最近はヒンディー語の文章においても、プールンヴィラームの代わりに英語のピリオド「.」が使われるようになった。また、詩では、一節の区切りを示すため、「॥」のようにプールンヴィラームが2つ重ねて書かれる。

 英語のコンマ「,」、日本語の「、」にあたるヒンディー語の句読点はアルドヴィラーム(半休止)と呼ばれるが、形は「,」で、英語と共通している。

 その他、エクスクラメーションマーク「!」、クエスチョンマーク「?」もヒンディー語でよく使われる。

 英語でよく使われるハイフン「-」やダッシュ「――」は、ヒンディー語でも同じ用法で使われる。ハイフンは単語と単語の接続、ダッシュは文と文の接続に使われる。

 英語では、「Mr.」、「Dr.」などのように、略語を示すためにピリオドが使われるが、ヒンディー語では「०」が使われる。डॉक्टर(医者)の省略形は「डॉ०」になる。だが、最近はヒンディー語でも英語のピリオドもよく使われるようになった。その場合、「डॉ.」になる。

ヴィサルガ

 稀にヴィサルガ(排出)という記号が単語中で使用されることがある。ヴィサルガは子音字の直後に付加されるコロンのような形状の記号で、「ः」となる。これは、ヒンディー語では ह と同様の発音になるか、省略される。

दुःख ドゥク dukh 悲しみ

दुःख = दुः + ख = [子音字 द(ダ) + 母音記号 ु(ウ) + ヴィサルガ ः(省略)] + [子音字 ख(カ)の潜在母音なし]

アヴァグラハ

 ごく稀に「ऽ」という英語の「s」のような記号が出て来ることがある。これはアヴァグラハ(障害)と呼ばれる記号で、サンスクリット語で使われる。一応説明すると、連声(ある単語の語尾の音と次の単語の語頭の音が結合したり変化する現象)が起きて語頭の「अ」が消滅したときに、代わりにこの記号が書かれる。だが、ヒンディー語でアヴァグラハが使われるときは、日本語の「・・・」のように、沈黙を表そうとしているときが多い。「ऽऽऽ」など。詩や歌詞の中でよく用いられる傾向にある。沈黙の表現では他に、シローレーカーをそのまま「・・・」と延長する方法や、ピリオドを「...」と続ける方法も見られる。

オーム

 以上で説明した母音字、子音字、記号などに加え、ヒンディー語の文章では時々「ॐ」という文字を見かける。これは「ओम्(オーム)」と読む。ヒンドゥー教の聖音、聖印であり、覚えておいて損はない。

ह の特殊な発音

 上のヴィサルガを含め、ह を伴う単語では、特殊な発音をすることが多い。まず、記号を伴わない子音字の後に、記号を伴わない ह が来る場合、前の子音字の潜在母音の発音は「ऐँ」、つまり短母音「アェ」に変化し、ह 自身の潜在母音は省略される。

नहर ナェヘル nehr 小川

नहर = न + ह + र = [子音字 न(ナ)の潜在母音変化(アェ)] + [子音字 ह(ハ)の潜在母音なし] + [子音字 र(ラ)の潜在母音なし]

बहस バェヘス behs 議論

बहस = ब + ह + स = [子音字 ब(バ)の潜在母音変化(アェ)] + [子音字 ह(ハ)の潜在母音なし] + [子音字 स(サ)の潜在母音なし]

 ह が語尾に来たときも同様に、直前の子音字の潜在母音が短母音「アェ」に変化する。ह 自身の潜在母音は省略され、「h」の音もほとんど聞き取れなくなり、前の短母音「アェ」が長母音「アェ」になったように聞こえる。

जगह ジャガェ jagae 場所

जगह = ज + ग + ह = [子音字 ज(ジャ)の潜在母音あり] + [子音字 ग(ガ)の潜在母音変化(アェ)] + [子音字 ह(ハ)の潜在母音なし]

छःまたはछह チャェ chhae 6

छः/छह = छ + ह = [子音字 छ(チャ)の潜在母音変化(アェ)] + [子音字 ह(ハ)の潜在母音なし]

 語中の हु は短く「ホ」と発音される。語頭、語尾では適用されない。

बहुत バホト bahot たくさん

बहुत = ब + हु + त = [子音字 ब(バ)の潜在母音あり] + [子音字 ह(ハ) + 母音記号 (ウ) = 「フ」が「ホ」に変化] + [子音字 त(タ)の潜在母音なし]

पहुँच パホチ(ホの音は鼻がかった音) pahonch 到着

पहुँच = प + हुँ + च = [子音字 प(パ)の潜在母音あり] + [子音字 ह(ハ) + 母音記号 (ウ) + 鼻母音記号 = 鼻がかった「フ」が鼻がかった「ホ」に変化] + [子音字 च(チャ)の潜在母音なし]

 語中で長母音「ए(エー)」または「ओ(オー)」の後に母音記号・鼻子音記号を伴わない ह が来た場合、直前の長母音はそれぞれ短母音「ऍ(エ)」または「इ(イ)」、短母音「ओँ(オ)」または「उ(ウ)」に変化することがある。 ह 自身の潜在母音は原則に従う。

मेहनत メヘナト mehnat 努力

मेहनत = मे + ह + न + त = [子音字 म(マ) + 母音記号 (エー) = 「メー」が「メ」に変化] + [子音字 ह(ハ)の潜在母音なし] + [子音字 न(ナ)の潜在母音あり] + [子音字 त(タ)の潜在母音なし]

मोहल्ला モハッラーまたはムハッラー mohallā/muhallā 街区

मोहल्ला = मो + ह + ल् + ला = [子音字 म(マ) + 母音記号 (オー) = 「モー」が「モ」または「ム」に変化] + [子音字 ह(ハ)の潜在母音あり] + [子音字 ल(ラ)の半子音形] + [子音字 ल(ラ) + 母音記号 (アー)]

 長母音が短母音化するか否かは、その単語の語源による。変化するのはアラビア語起源の借用語のみ。それ以外の語源の単語では上の変化は起こらない。例えば、「मोहन」という単語はクリシュナ神の別名でインド人の人名にもよく使われるが、「モハン」「ムハン」ではなく、普通に「モーハン」と読まれる。だが、いちいち語源を覚えるのは大変なので、初級者はとりあえずこの点は忘れていい。

結合文字による促音化

 異なるセットの子音字の結合文字が、語中または語尾に表れた場合、最後の子音字の直前の半子音字の音が促音化することがある。日本語で言えば、直前に「ッ」の音が挿入される。結合文字の中の最後の文字が半母音字 य(ヤ), र(ラ), ल(ラ), व(ワ)のときに促音化することが多いが、それ以外の場合でも促音化して聞こえることがある。

विद्या ヴィッディヤー viddyā 学問

विद्या = वि + द् + या = [子音字 व(ヴァ/ワ) + 母音記号 ि(イ)] + [子音字 द(ダ)の半子音形の促音化] + [子音字 य(ヤ) + 母音記号 (アー)]

यात्रा ヤーットラー yāttrā 旅行

यात्रा = या + त् + रा = [子音字 य + 母音記号 (アー)] + [子音字 त(タ)の半子音形の促音化] + [子音字 र(ラ) + 母音記号 (アー)]

अग्नि アッグニ aggni 火

अग्नि = अ + ग् + नि = [母音字 अ(ア)] + [子音字 ग(ガ)の半子音形の促音化] + [子音字 न(ナ) + 母音記号 ि(イ)]

 3子音の結合文字(半子音字+半子音字+子音字)の場合も、最後の子音字の直前の半子音字が促音化する。

मत्स्यन マトッスャン matssyan 漁業

मत्स्यन = म + त् + स् + य + न = [子音字 म(マ)の潜在母音あり] + [子音字 त(タ)の半子音形] + [子音字 स(サ)の半子音形の促音化] + [子音字 य(ヤ)の潜在母音あり] + [子音字 न(ナ)の潜在母音なし]

शास्त्र シャースットル shāsttr 経典

शास्त्र = शा + स् + त् + र = [子音字 श(シャ) + 母音記号 (アー)] + [子音字 स(サ)の半子音形] + [子音字 त(タ)の半子音形の促音化] + [子音字 र(ラ)の潜在母音なし]

特別な発音の単語

 以下の1文字の単語は、長母音を示す母音記号を伴っているが、短母音で発音される。全て、日本語の助詞に相当する単語である。ヒンディー語では後置詞と呼ばれる。(鼻)は鼻母音を示す。

का カ ka ~の
की キ ki ~の
के ケ ke ~の
को コ ko ~を
ने ネ ne ~が
पे ペ pe ~の上に
में メ(鼻) men ~に
से セ se ~から

 以下の単語は例外的に文字通りに発音されない。

गाँव ガーオ(鼻) gāon 村
पाँव パーオ(鼻) pāon 足
छाँव チャーオ(鼻) chhāon 影
एवं エヴァム evam ~と~
चिह्न チンヌ chinn 印
जन्म ジャナム janam 誕生
वह ヴォ vo あれ/彼/彼女

語末の短母音に関する注記

 語末に短母音が来た場合、口語ではそれが長母音化したり、母音が脱落したりする現象がある。例えば、「力」という意味の शक्ति が「シャックティー」と発音されたり、「導師」という意味の गुरु が「グル(gur)」と発音されたりする。だが、これらは誤った発音であり、わざわざ真似する必要はない。

語末の य と व に関する注記

 語末に य(ヤ)または व(ワ/ヴァ)が来て、その直前の母音が अ(ア)または आ(アー)の場合、 य または व はそれぞれ「エ」、「オ」に聞こえることがある。だが、それらは発音の変化ではなく、潜在母音が省略され、य が「y」に、व が「v/w」になった音が、直前のअ または आ の音に影響を受けて変化して聞こえるだけである。それぞれ「y」、「v/w」の音に他ならない。

चाय チャーエ/チャーイ chāy 茶

चाय = चा + य = [子音字 च(チャ) + 母音記号 (アー)] + [子音字 य(ヤ)の潜在母音なし]

नाव ナーオ/ナーウ nāw 舟

नाव = ना + व = [子音字 न(ナ) + 母音記号 (アー)] + [子音字 व(ワ/ヴァ)の潜在母音なし]

長母音の連続に関する注記

 ヒンディー語では、長母音が連続する単語で、特定の長母音が短く聞こえることがある。

 例えば、「病気の」という意味の単語 बीमार は「ビマール」に、「市場」という意味の単語 बाज़ार は「バザール」に、「信仰」という意味の単語 ईमान は「イマーン」に聞こえることがある。

 逆に、「兄」という意味の単語 दादा は「ダーダ」に、「姉」という意味の単語 दीदी は「ディーディ」に、「婦人」という意味の単語 बीबी は「ビービ」に聞こえることがある。

 だが、それらは長母音の短母音化と言えるほどのものではない。よって、発音時にそれらをわざわざ短母音で発音する必要はない。

付録


ऍ の音が出て来る単語

 主に英語からの借用語に多い。सेट, जेट, चेक, पेट, प्रेस, पेन などの「ए」の音は、長母音「エー」ではなく短母音「エ」で読むのが正しい。कालेज, मार्केट, क्रिकेट などの「ए」は、「イ」または「エ」と読む。他に、「1」という意味の数詞 एक が「エク」と短く読まれることがある。また、詩の中では मेरा, तेरा などの「ए」の音が短母音「エ」で読まれることもある。ऍ の母音字や、それに相当する母音記号がヒンディー語の単語の中で出て来ることはない。長母音「エー」の母音字「ए」または母音記号「े」を、暗黙の了解で短母音として読むようになっている。


ऐँ の音が出て来る単語

 子音字 ह の前に、記号を伴わない子音字が来た場合、その子音字の潜在母音「ア」は、「ア」と「エ」の中間の短母音「アェ」と読まれる。例えば、रहना は「ラェヘナー rehnā」と読まれる。他に, कहना, नहर, शहर, क़हर, सहन, बहस, सहमना, ठहरना, महज़ などの単語がこの例である。


ओँ の音が出て来る単語

 特定の単語において、長母音「ओ(オー)」の音は短母音「ओँ(オ)」で読まれる。例えば、ओखली, भोजपुर ई, ओतना, गोदना, ओढ़ना など。ओँ の母音字や、それに相当する母音記号がヒンディー語の単語の中で出て来ることはない。


ऑ の音が出て来る単語

 英語からの借用語のみ。例えば、कॉफ़ी, टॉफ़ी, बॉल, कॉपी,डॉक्टर など。