シヴァとパールヴァティー

 昔、ターラカというアスラ(悪魔)が苦行により強大な力を持ったときがあった。ターラカはブラフマーから「シヴァの息子以外には殺されない」という身体を約束された。この頃のシヴァは、サティーを失ったばかりで苦行生活に入っており、当分再婚する気配がなかったからだ。世界はターラカによって征服され、神々はターラカの命令に従わなくてはならなくなっていた。

 そこで神々はシヴァを再婚させるためにサティーの生まれ変わりを出現させた。それがパールヴァティーだった。パールヴァティーはヒマーラヤの神ヒマヴァット(パールヴァタ)とメーナーの娘として生まれた。まず神々はシヴァの瞑想を止めさせるために、愛の神カーマ、カーマの妻で性欲の女神ラティー、春風の神ヴァサンタをシヴァのところへ遣わした。

 そのときちょうどシヴァは真冬の山の中で瞑想をしていた。ところがカーマ、ラティー、ヴァサンタが近付くと、木々には葉っぱが青々と茂り、花々が咲き乱れ、全ての自然が愛を求め始めた。カーマは花で飾られた矢をシヴァに向けて放った。矢はシヴァに命中し、シヴァの心に欲望が生じた。しかし、瞑想を邪魔されたシヴァは怒り、第三の眼から光線を発してカーマを焼き殺してしまった。

 パールヴァティーは父親のヒマヴァットと共に瞑想するシヴァの元を訪れ、花と果物を捧げた。シヴァはパールヴァティーに魅了されてしまったが、黙って瞑想を続けいていた。ヒマヴァットはシヴァに「毎日供え物を捧げに来てもよろしいでしょうか」と頼んだ。しかしシヴァは拒否して答えた。「来るのだったら一人で来なさい。苦行者に女は必要ない」。それを聞いたパールヴァティーは反論した。「シヴァ様、苦行のときに使われる力を含め、全ての力は女性原理(プラクリッティ)によって維持されます。あなたは女性なしには存在できないでしょう。」シヴァはパールヴァティーの聡明さに感服しながらも答えた。「私は苦行によって女性原理をもコントロールし、破壊することができる。」パールヴァティーは再び反論する。「もしあなたが女性原理よりも偉大ならば、なぜ私を恐れるのでしょうか?」パールヴァティーに説き伏せられたシヴァはパールヴァティーに求婚し、二人は結婚することになった。

 シヴァとパールヴァティーの結婚式は盛大に行われたが、儀式の中でシヴァは自分の血筋を宣言しなければならなかった。これはヒンドゥー教の伝統である。ところがシヴァは自ら生じた神だったので、血統も血筋もなかった。黙ってしまったシヴァの代わりに結婚式の主催者であったナーラダがヴィーナーを演奏し始めた。ヒマヴァットはナーラダが儀式の邪魔をしていると思い、ヴィーナーを止めるように注意したが、ナーラダはこう答えた。「シヴァはただ自己の意思と喜びによって形を現した不確かな現実である。ナーダ(原始の音)のみがシヴァの本当の起源を示すことができる。よって私はシヴァの血統を示すためにヴィーナーを演奏したのだ。」

 シヴァとパールヴァティーは仲睦まじい夫婦になったが、結婚後何百年間もずっと交合を続けたままだった。これではターラカを倒すための子供が生まれない。しかもその交合の振動で地球が振動して人々も神々も困り果ててしまった。そこで火の神アグニがシヴァのもとへ行って交合を止めさせた。シヴァはパールヴァティーから離れたが、そのときシヴァの精液がこぼれ落ちそうになった。アグニはその精液を持って帰ることにした。ところが、その精子は運んでいる内にどんどん重くなったので、アグニは仕方なくガンジス河の中にその精子を落とした。そのガンジス河から生まれたのが、軍神カールッティケーヤだった。カールッティケーヤは生まれて7日目にターラカを殺して世界に平和をもたらした。

△▽△▽ 考察 ▽△▽△

◆シヴァとパールヴァティーの結婚の話には数多くのヴァリエーションがある。これはその中でもパールヴァティーがシヴァを説き伏せるタイプ。パールヴァティーが苦行によってシヴァの愛を勝ち取る話もある。

◆焼き殺されてしまったカーマのその後については、姿が見えなくなったおかげで前よりも人の心に恋を芽生えさせる仕事がしやすくなった、とか、妻のラティーの嘆願により生き返らせてもらったが、人間の心の中に住むようになったとか、これもいろいろヴァリエーションがある。

△▽△▽ 関連名 ▽△▽△

 カーマンタカルティー(欲望を終わらせる者)kamantakarti