◆シカンディン◆
 昔、ビーシュマは弟のヴィチトラヴィーリヤ王の花嫁を得るため、カーシー国へ行き、3人の姫アンビカー、アンバーリカー、アンバーをクシャトリヤ(武士階級)のしきたりに習って手に入れ、本国へ連れて帰ろうとしていた。ところが、アンバーには相思相愛の相手がいた。サウラバ国の王シャルヴァである。シャルヴァはビーシュマの前に立ちはだかり、戦いを挑んだ。しかしビーシュマにはかなわず、シャルヴァは命だけは助かったものの、敗走してしまった。

 クル族の都ハスティナープラに帰ると早速ビーシュマは結婚式をあげようとしたが、アンバーは「シャルヴァ以外の男とは結婚しない」と言って拒否した。そこでビーシュマはアンビカー、アンバーリカーをヴィチトラヴィーリヤ王と結婚させ、アンバーはシャルヴァのもとへ送った。ところがシャルヴァは「ビーシュマに負けた今、あなたを妻として迎え入れることはできません」とアンバーをビーシュマのもとへ送り返した。ヴィチトラヴィーリヤも「他の男に心が向いている女性と結婚することはできない」と、アンバーと結婚することを拒否、ビーシュマは生涯誰とも結婚することができないことから、アンバーはとうとう誰とも結婚できないまま女の盛りのときを過ごすこととなってしまった。こうして、アンバーの憎悪はビーシュマに向けられることとなった。

 アンバーはビーシュマを殺してくれる戦士を捜したが、誰もビーシュマにはかなわなかった。そこでシヴァ神に祈る他はないと考え、ヒマーラヤ山で苦行をした。シヴァ神は「今度生まれ変わったときにビーシュマを殺すだろう」と予言した。アンバーは来世が待ちきれなくなり、自ら命を絶った。

 アンバーはパンチャーラ国のドルパダ王の娘シカンディニーとして生まれ変わった。シカンディニーは森の中でヤクシャ(精霊の一種)と性を交換して男となり、シカンディンという名の勇者となった。シカンディンはパーンダヴァの5王子やカウラヴァの100王子とともにドローナのもとで武術を習った。

 ビーシュマはシカンディンが本は女性であることを知っており、女性を攻撃してはならないというクシャトリヤとしてのしきたりから、決してシカンディンに攻撃を加えようとはしなかった。