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【スケッチについて】

Ψ素材Ψ

 紙はB6サイズのスケッチ・ブック。実物を見るとけっこう小さいですが、このくらいが旅行中に携帯するのに一番いいサイズなので、これ以上の大きさの紙に書く気はあまりしません。

 ペンはゲルインク式のボールペンのみ。三菱のUniball Signo極細ブラウンブラック色を愛用しています。このペン、この色でないとうまく描けないような気がして、いつも大量にこのペンを持って旅行に出掛けています。

Ψ僕にとってスケッチとはΨ

 僕にとってスケッチとは、ずばり瞑想です。絵を描くことによって精神が集中し、また安定します。下書きなし、一発勝負のペンで書いているので、ものすごく神経を使います。1本1本の線が戦いです。失敗は許されません。この緊張感が密かな楽しみです。また、説明するのは難しいのですが、非常に数学的な思考を用いて描いています。修正液や定規などは持参すらしていません。

 また、スケッチをしているといろんな人が寄ってくるので、コミュニケーションのきっかけともなりますし、ヒンディー語の勉強にもなります。スケッチ中に有益な情報を得ることもしばしばあります。

Ψ手順Ψ

 僕がスケッチをするのは主に建築物です。全て現地に行って実物を見て描くことをモットーにしています。各地の人を描くのも面白いと思うのですが、人や動物は動くので僕の絵に向きません。それに建築物は失敗しても文句を言いませんし・・・。

 どんな建物でもスケッチしてしまうわけではありません。厳密な選定基準が存在します。まず、見た目がかっこいい、色気がある、独特、僕の絵に適している、などでなければなりません。また、歴史的に重要な建物などは、取りとめのない外観でもスケッチすることもあります。それにタイミングも重要です。その建物を訪れたときの僕の健康状態、精神状態、それに気候、雰囲気などによっても左右されます。

 もしただ単に写真に撮るだけだったら一番かっこいいアングルを選ぶのが優先されますが、スケッチとなると必ずしもそうは行きません。もっとも重要なのは日陰です。特にインドのような日差しの強い国の場合、その建物がよく見える日陰があるかどうかが重要な選定基準になります。そしてちょうどいい腰掛け。腰掛けがなくても地べたに座り込んだり、そこら辺に転がっているレンガを積み上げて椅子にしたりといろいろ工夫をしています。

 スケッチ時間は平均して大体2時間〜3時間ほどです。経験上、いい絵が描けるのは午前中です。正午をまたいでスケッチをすると、日陰の位置が正反対に移動していつの間にか日向に座っているようなことも多いので、なるべくスケッチ中ずっと日陰である場所を予想して選ぶことも重要になって来ます。

 スケッチを始める前は一度深呼吸をして呼吸を整えることにしています。そして建物をよく見ます。心の無にして見ていると、なんとなく完成図が見えてきます。描けそうだ、と思ったらスケッチ・ブックを取り出してスケッチを始めます。

 まず全体像をとらえ、1枚の紙の中にちょうど収まるような大きさになるようによく考えます。大体目途がついたら、細部から埋めるように描いていきます。

 概してスケッチを始めてから終わりまで何の不安もなかったときにいい絵が描けます。雨が降りそうだったり、尿意便意をもよおし始めたり、日没が迫っていたりすると、どうしても急いでしまって絵が雑になります。絵の対象物は建物ですが、完成品は僕の精神状態を如実に表したものとなります。

Ψスケッチの変遷Ψ

 僕がスケッチを始めたのは、1998年、エジプトのカイロ近辺にあるサッカラのピラミッドです。それまで絵日記をつけており、思い出して絵を描いていたのですが、サッカラのピラミッドを見たときに、現地で実物を見て描いてみようと思い立って、日陰に座って絵を描きました。そのときはササッと描く程度でしたが、次第にエスカレートして今のような気合の入った絵になりました。絵日記から独立してスケッチ・ブックに描くようになったのは、2000年のタイ・カンボジア・インド(2度目)旅行のときからです。また、絵日記のときは色も付けていましたが、スケッチ・ブックにしてからは色は付けないようにしました。

 絵日記時の傑作と言えば、写真撮影禁止だがスケッチは禁止されていない、ということで1人黙々とスケッチをしたエジプト、カイロ博物館のツタンカーメンのマスクと棺、1999年にインド初旅行をした際に描いたムンバイーのタージマハル・ホテル、エローラーのカイラーサナータ寺院、ラーメーシュワラムのラーマナータスワーミー寺院、マドゥライのミーナークシー寺院、タンジャーヴルのブリハディーシュワラ寺院などです。1999年には中国も旅行したのですが、中国ではなぜかいい絵が描けませんでした。

ツタンカーメンのマスク
ツタンカーメンの棺
エローラーのカイラーサナータ寺院(縮小してあります)
ムンバイーのタージマハル・ホテル(縮小してあります)
ラーメーシュワラムのラーマナータスワーミー寺院(縮小してあります)
マドゥライのミーナークシー寺院(縮小してあります)
タンジャーヴルのブリハディーシュワラ寺院(縮小してあります)


 スケッチ・ブックになってからの作品は「スケッチ広場過去の傑作集」に掲載していあります。

Ψスケッチ中に起こることΨ

 スケッチをしているといろんな事が起こります。観光地や寺院などの隅でチョコンと腰掛けて黙々と描いているので、最初は不審がられます。遠目から「何やってるんだ」という目で見つつ通り過ぎていく人たちが多いです。やはり最初に好奇心を持って近付いてくるのは小さな子供たちです。その子供が友達やさらに年長の子供を呼び、さらにその子供がまた知り合いを呼んだりして、だんだん見物人が多くなって来ます。こうなってくると大人も好奇心に打ち克つことができず、寄って来るようになります。そして質問攻めが始まります。

 こういう場合、質問される内容は大体決まっているので、もう既に質問された瞬間に答えが自然と出てくるようになっています。だからあまり苦になりません。小さな子供などが絵見たさについつい僕の目の前に立ちふさがってしまうこともありますが、そういう場合は必ず誰かが注意してくれてどかしてくれるので、僕は気を遣う必要はありません。

 寺院などの宗教施設のスケッチをしている場合、僕を何かの聖者と勘違いしているのか、手を合わせられることがあります。そういうときは半分誇らしく、半分恥ずかしい気持ちがします。さすがに小銭を恵まれるようなことは今まで一度もありませんが・・・。

 スケッチをしていると、インドの田舎でよく聞かれるのが、「カメラを持って来なかったのか?」という質問です。どうもカメラを持って来なかったからスケッチをしていると思っているようです。やはり芸術というのは、ある程度物質的に余裕がないと理解するのも実行するのも難しいようです。でも、こういう質問をする人が僕は好きです。



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